障害福祉サービスにおける不正請求問題と安心できる事業所の選び方

こんにちは。Lumo岡山東区店でサービス管理責任者を務める本多楓です。

今回は、2025年8月に報じられた就労継続支援B型事業所での不正受給事件について、同業者の立場から解説し、支援の在り方、利用する事業所の選ぶ際のポイントを考えてみたいと思います。

報道によると、

岡山県玉野市で、元社会福祉法人代表理事(84歳)と無職の男性(63歳)が、実際には支援を行っていないにもかかわらず2018年12月から2019年11月にかけて利用実績を偽造虚偽のサービス実績を作成した疑いで逮捕されました。

さらに、2019年2月から2020年1月にかけて11回にわたり社会福祉法人の口座に合計160万6,510円を振り込ませたとされています。

警察は当該法人からの相談を受けて今年2月に告発状を受理し、捜査を進めた結果、2人の逮捕に至りました。

障害者就労支援の給付金だまし取った疑い 岡山・玉野署 社福法人の元代表理事ら逮捕|山陽新聞デジタル

不正請求問題の背景

まず、就労継続支援B型制度の概要を整理します。

就労継続支援B型は、一般企業での就労が難しい障がいのある方に対し、就労の機会を提供すると同時に訓練を行う場です。

利用者は雇用契約を結ばないため、自分の体調やペースに合わせて通所でき、その対価として「工賃」を受け取ります。

一方で事業所は、「利用者が働いた実績」に応じて国や自治体から報酬(給付費)を受け取ります。

この報酬制度に要する費用の約9割は公費(国・自治体)で賄われ、残り1割を利用者が負担する仕組みです。

地方自治体は住民税非課税世帯の場合には自己負担なしとするなど、低負担で利用できるよう規定しています。

このように公費が大きく関わる仕組みだからこそ、利用実績の正確な記録と報告が不可欠です。

事業所は毎月、利用者の活動時間や作業内容を記録して自治体に提出し、そのデータをもとに給付費が支払われます。

したがって、この実績記録を改ざんして給付費を受給する不正が発生すると、事業所は多額の報酬を得てしまえます。

実際、近年は全国各地で一部の障害福祉サービス事業所における不正請求が相次いでいます。

中日新聞Webが行った全国調査によれば、2019年から2023年の5年間で全国約400件の行政処分総額58億円以上の不正受給が確認されており、その手口の多くが「実際には行っていない支援を行ったと偽る」「支援時間を水増しする」「資格を満たさない職員によるサービス提供偽装」といったものでした。

障害福祉サービスの不正受給58億円超 19~23年度全国調査、行政処分は427件|中日新聞Web

例えば、就労継続支援B型では「利用時間」に応じて報酬が支払われる仕組みになっており、1日2時間しか滞在していなくても「終日利用した」と記録されれば報酬額が大きく変わる場合があります。

そのため、利用者の実情よりも「請求を多くすること」を優先してしまう事業所も一部あるのです。

引用:社会保障 6.障害福祉 障害福祉サービス等の現状①(予算・利用者数の推移)|財務省

財務省も障害福祉分野の予算抑制を提言し、2024年度の障害福祉サービス予算が約2兆183億円と10年間で倍増する一方で、不正受給額も増加傾向にあると指摘しています。

また、 過去の類似事例を挙げると、京都市や兵庫県などでも同様の不正事案が報じられています。

ある事業所では管理者が常勤していないにもかかわらず、書類上は配置されているように装い、約4800万円の給付費を不正請求したとして指定取消と返還命令を受けました。

また別のある事業所では、元サービス管理責任者が、実際に通所実績のない利用者3名分の給付金を申請して2年間で約792万円を不正請求し、実刑判決を受けた事件が報道されました。

こうした事例は氷山の一角であり、全国で行政による監査と処分が相次いでいます。

このように、全国でB型事業所をめぐる給付費不正が確認されており、発覚した場合は給付費の返還や指定取消など厳しい行政処分が課されます。

障害福祉サービスとは

同じ障害福祉業界に身を置く者として、今回のニュースには本当に残念な思いを抱きました。

制度を悪用する人がいる一方で、日々真摯に利用者支援にあたっている事業所も多くあるからです。

こういったニュースを聞くたびに、「この支援は一体誰のためにあるのか」「なぜ私たちはこの仕事をしているのか」という原点を改めて問い直さざるを得ません。

障がい者支援は「事業所の利益」ではなく「一人ひとりの可能性を引き出し、社会とつなぐこと」。

障がいを持つ方自身の社会参加や自立を促すための活動です。

そこには、国や自治体の支援だけでなく、現場の私たち一人ひとりの使命と責任があります。

この当たり前の使命が、形骸化してしまうことに強い危機感を覚えます。

障害者総合支援法は、障がいのある人が地域で安心して暮らし、社会参加できることを基本理念としています。

だからこそ、就労継続支援B型は「生産活動」という手段を通じて利用者の自信や経験を積み重ね、社会との接点を広げていく役割を持っています。

その目的を見失い、制度を悪用してお金を得ることは、利用者の尊厳を踏みにじる行為にほかなりません。

私は、障がい者支援の仕事に携わる上で最も大切なのは「なぜこの事業をしているのか」という原点を忘れないことだと思います。

支援者一人ひとりが使命感を持ち、利用者の小さな成長や笑顔に寄り添えるかどうか。

それが事業所全体の姿勢につながります。

今回の事件をきっかけに、私自身も「利用者様の未来をどのように支えていけるのか」を改めて問い直し、支援の本質に立ち返る必要があると強く感じました。

事業所を選ぶ際のポイント

大切なご家族を安心して任せられる事業所を選ぶことは、非常に重要です。

以下のポイントを参考に、事業所を慎重に選ぶ手助けとしていただければと思います。

理念・運営方針の確認

まず事業所の理念や運営方針が明確に示されているか確認しましょう。

ホームページやパンフレットを事前にチェックし、どのような支援内容や日々の活動が行われているか、

また、「障がい者の自立支援」「地域とのつながり」「安心できる居場所づくり」などが具体的な言葉で語られているかを見てみてください。

工賃の水準はどれくらいかなども把握しておきましょう。

運営方針や社会的な目標が自分の考えと合っているかどうかも重要です。

可能であれば、複数の事業所を比較検討し、納得できるところを選びましょう。

情報収集

HPやSNS、ブログなどは最新情報が得られる便利なツールです。

施設の雰囲気や取り組みが紹介されていることがありますので目を通しましょう。

日常の活動報告やスタッフの声が公開されている事業所は、情報公開に前向きで透明性があります。

最近では、AIを使って口コミや評判を調べる方も増えています。

例えば「この事業所はどんな活動をしているの?」と検索すれば、ネット上の評判や活動内容を効率的に集めることができます。

自治体の報告書や福祉ニュース、専門家のコラムなども参考にし、公的な視点からも情報収集することが役立ちます。

見学や体験に行く

また、見学や体験利用は必ずおすすめします。

実際に事業所に足を運ぶことで、ホームページだけではわからない施設の雰囲気や職員の対応が直接わかります。

スタッフが利用者にどのように接しているのか、利用者同士の雰囲気はどうか、施設が清潔で安全かどうかなどを自分の目で確かめることが大切です。

その際には「支援計画はどのように立てられるのか」「工賃はどのくらいか」「通所日数や活動時間の調整は可能か」など、具体的な質問も用意していくと良いでしょう。

さらに、職員との相性も重要です。

信頼できるスタッフに出会えるかどうかで、ご家族の安心感も大きく変わります。

相談しやすい雰囲気があるかどうか、困ったときにすぐ対応してもらえるかどうかを確かめてください。

最後に、支援記録の管理や説明がしっかり行われているかどうかも重要な判断材料です。

不透明な部分がある施設は避け、支援の内容や成果を丁寧に説明してくれるところを選びましょう。

以上のように、見学前には事前準備としてホームページやパンフレットで基本情報を把握し、質問事項をまとめておくと良いでしょう。

実際に見学や体験をするとなると、緊張したり不安だったりするかもしれませんが、焦らずじっくり探すことが、安心して利用できる事業所選びにつながります。

 

以下は、2025年8月時点の情報をもとに岡山県のおすすめB型事業所9選をまとめた記事です。

参考までに、こちらもぜひご覧ください。

2025年最新 岡山県のおすすめ就労継続支援B型事業所9選|Lumo岡山東区店

まとめ

今回の不正受給事件は、障がい者福祉に携わる私たち全員が向き合うべき問題を浮き彫りにしました。

支援の目的は、制度を利用して利益を得ることではなく、一人ひとりの可能性を見出し、社会に繋げていくことです。

だからこそ、ご本人様やそのご家族の方が施設を選ぶ際には、その事業所が本当に使命感を持って運営されているかどうかを見極めていただきたいと思います。

障がいを持たれた方とそのご家族が、安心して笑顔で暮らせる地域社会を築くために、私たち支援者は一層誠実に、真心を込めて歩んでまいります。