就労継続支援の現場では、職業指導員や生活支援員に対して、
「できて当然」「覚えていて当然」「わかっていて当然」という空気が生まれがちです。
でも、本当にそれは現実的な期待なのでしょうか。
人は忘れる生き物だという前提から、支援のあり方をもう一度見つめ直してみたいと思います。
Contents
支援者だって「忘れる」――人間なら当たり前のこと
就労継続支援事業所では、職業指導員や生活支援員が、日々さまざまなことを利用者さんにお伝えしています。
作業の仕方、安全のポイント、声かけのコツ、個別の配慮点……。覚えなければいけないことは、本当にたくさんあります。
しかし、どれだけ一生懸命覚えようとしても、人間は忘れる生き物です。
いったん覚えたつもりでも、別の情報が次々と入ってくるなかで、
「あれ、どうだったっけ?」とわからなくなってしまうことは、誰にでも起こりえます。
それは怠けているからでも、真剣さが足りないからでもなく、
単純に「人間だから」というだけの話です。
それでも現場では、支援者に対して「忘れてはいけない」「間違えてはいけない」という空気が強くなりがちです。
しかも就労継続支援B型のような福祉の現場では、
「人の生活」や「安全」に関わる情報も多いため、
支援者自身も「絶対に忘れてはいけない」「失敗してはいけない」というプレッシャーを、自分にかけてしまいやすくなります。
「忘れることそのもの」は悪ではない
忘れること自体は、脳のしくみとして当たり前のことです。
むしろ、すべての情報を抱え込み続けることは、人間には不可能ですし、メンタルにも負担がかかります。
本当に大事なのは、
「忘れたときにどうするか」「忘れる前提でどんな仕組みをつくるか」です。
にもかかわらず、「忘れたこと」そのものを責めてしまう文化があると、
現場はどんどん息苦しくなっていきます。
「職業指導員だから、できて当然」というプレッシャー
ここで問題にしたいのは、
職業指導員だから、生活支援員だから「できて当然」だと上司や利用者が思い込んでしまうことです。
もちろん、支援のための知識をつけようとする姿勢や、
覚えようと努力する姿勢はとても大切です。
全く勉強しない、振り返らない状態であれば、指摘されても仕方がない場面もあるかもしれません。
それでも、前提として共有したいのは、
「どれだけ頑張っても、人は忘れる」という現実をまず理解してもらう必要があるということです。
上司からの「前も言ったよね?」というひと言
上司の立場からすると、何度も同じことを伝えている感覚になると、ついこんな言葉が出てしまうことがあります。
- 「それ、この前も説明したよね?」
- 「なんでまだ覚えていないの?」
- 「プロなんだから、しっかりしてよ」
言っている側に悪気はない場合も多いと思います。
ですが、言われた側は「忘れた自分=ダメな職員」だと感じてしまい、
次第に「わからない」と言いづらくなっていきます。
その結果、本来であれば確認してから進めたい場面でも、
「怒られたくないから、とりあえずやってしまおう」と、
不安を抱えたまま作業に入ってしまうことも出てきます。
これは支援の質や安全面のリスクにもつながってしまいます。
利用者さん・家族からの「プロなんだから」という期待
利用者さんやご家族からも、こういった言葉が投げかけられることがあります。
- 「支援員さんなんだから、知ってますよね?」
- 「ここはプロとしてきちんとしてほしいです」
期待してくださっているからこその言葉である一方で、
支援者を「何でも知っていて当たり前の人」として扱ってしまう危うさも含んでいます。
支援者も、利用者さんも、ご家族も、同じ「人」です。
それぞれに得意不得意があり、疲れる日もあれば、調子がいい日もある。
その当たり前の揺らぎが見えなくなると、誰かが「できて当然」の役割を押し付けられ、
そこにひずみが生まれてしまいます。
言葉にしなくても伝わってしまう「できない人」扱い
一緒に働いているスタッフ同士でも、気づかないうちにこんな雰囲気が生まれていないでしょうか。
- 「そんなこともわからないの」
- 「あの人はできないから、任せるのやめよう」
こうした言葉をはっきり口に出していなくても、
表情や態度、ため息などから伝わってしまうことがあります。
それを感じ取った職員は、「もう質問しにくい」「迷っても聞けない」と感じ、
一人で抱え込んでしまいがちです。
その結果、本当は確認した方がいい場面でも、
「多分こうだったはず」と不安なまま対応してしまう。
それは、支援者にとっても利用者さんにとっても、決して良い状態とは言えません。
「わからないから、一緒に確認しに行きます」という関わり
では、支援者はどう振る舞えばよいのでしょうか。
僕は、次のような言葉を大切にしていきたいと考えています。
「わからないから、他のスタッフに確認しに行きます」
「これはわからないですね。一緒にわかる人に確認に行きませんか」
「判断が難しいですね、一緒に確認しましょう」
わからないことはわからない。だから聞きに行く、確認する。
これはスタッフでも利用者でも関係ありません。
一緒に確認しに行くことで、お互いに理解を深めることができますし、
利用者さんからすれば、「置いていかれない」「一緒に考えてくれる」という安心感にもつながります。
利用者さんとの会話例
例えば、ある作業の手順を聞かれたとき、支援者が自信を持てない場合。
悪い例:
「たぶんこうだったと思います。とりあえずやってみましょう」
これは、利用者さんにとっても不安ですし、事故のリスクも高まります。
良い例:
「ごめんなさい、今の説明だと不安なので、もう一度手順を確認してきてもいいですか?」
「一緒に手順書を見ながら確認してみましょうか」
こうした一言は、支援者の不完全さを認めながらも、
利用者さんを巻き込み、一緒に安全をつくろうとする姿勢につながります。
スタッフ同士の会話例
スタッフ同士でも、こんな声かけができると、空気はずいぶん変わります。
- 「この前教えてもらったんだけど、もう一度教えてもらってもいい?」
- 「自分も前に忘れちゃったことがあるから、一緒に確認しよう」
- 「マニュアルに書き足しておこうか。次に困らないようにしようね」
ミスや「わからない」を個人の能力不足として責めるのではなく、
「仕組みやチームで補おう」という発想に切り替えていくことが大切だと思います。
不完全さを大切にすることは、責任放棄ではない
「不完全さを大切にする」と聞くと、
「じゃあ、ミスしてもいいってこと?」「甘えなんじゃない?」と感じる方もいるかもしれません。
僕が大切にしたいのは、「どうせ忘れるからテキトーでいい」という開き直りではないということです。
そうではなく、
- 人は忘れるという前提で、仕組みや声かけを工夫すること
- わからないことを一人で抱え込まず、チームで確認・共有すること
- 完璧さではなく、「一緒に解決しようとする姿勢」を評価すること
この3つを大切にしたい、という意味です。
何でもかんでも完璧にこなせる人は、確かに「頼りになる人」に見えるかもしれません。
しかし、もしミスも迷いもなく、感情の揺れもない存在だったら、
どこか「ロボットみたい」に感じられてしまうかもしれません。
人間らしい揺らぎや、「間(ま)」があるからこそ、
そこに会話が生まれ、支え合いが生まれます。
不完全さを認め合うことは、「だからこそ助け合えるよね」と言える関係をつくることだと思っています。
忘れる前提でつくる、安心のしくみ
人が忘れる生き物だとしたら、「忘れない努力」だけに頼るのは危険です。
大事なのは、忘れても思い出せるしくみを職場として用意しておくことです。
マニュアルやチェックリストで「頭の外」に出す
作業手順や支援のポイントを、マニュアルやチェックリストにまとめておくことは、シンプルですがとても効果的です。
- 写真付きの作業手順書
- 危険を防ぐためのチェックリスト
- 利用者さんごとの配慮点や特性メモ
「全部覚えておかないといけない」ではなく、
「わからなくなったら一緒に見返せる」道具として整えておく。
それだけで、新人さんもベテランも、だいぶ気持ちが楽になります。
OJTやミーティングで「忘れ方」も共有する
研修やOJT、ミーティングの場では、新しい知識を伝えるだけでなく、
「どこが覚えにくかったか」「どの手順でつまずきやすいか」といった、
「忘れやすいポイント」そのものを共有することも大切です。
例えば、
「この作業は、3番目の手順を飛ばしやすいから、チェックポイントをつくろう」
「ここは新人さんが混乱しやすいから、声かけの例文を用意しておこう」
といった形で、失敗しやすいところを前提に仕組みを整えていくイメージです。
「聞きやすさ」は最大の安全対策
どれだけ仕組みを整えても、「聞きづらい」空気があれば機能しません。
逆に言えば、「わからない」「忘れた」と言い合える関係性は、それ自体が大きな安全対策です。
上司やベテランが、
- 「私もよく忘れるから、一緒に確認しよう」
- 「わからないことがあったら、いつでも聞いてね」
と言い続けること。
そして、本当に質問されたときに、ため息ではなく感謝を返すこと。
「聞いてくれてありがとう。危ないところだったね」と伝えられるかどうかで、
現場の空気は大きく変わっていくと思います。
岡山市東区・就労継続支援B型Lumoとして目指したい現場
岡山市東区の就労継続支援B型Lumoでも、
「完璧な支援者」を目指すのではなく、「不完全さを前提に支え合えるチーム」を大切にしていきたいと考えています。
例えば、Lumoのなかで意識していきたいこととして、次のようなものがあります。
- 「わからない」と口に出せる雰囲気づくり
- 作業手順や支援のポイントを、個人の記憶だけに頼らず共有する工夫
- 利用者さんにも「一緒に確認しに行きましょう」と提案できる関わり
- 失敗やヒヤリハットを、個人攻撃ではなく学びとして扱う文化
支援者も利用者さんも、同じ「人」です。
忘れることもあれば、体調が良くない日もある。
だからこそ、互いの不完全さを前提に、寄り添い合える現場でありたいと思っています。
「できて当然」というプレッシャーではなく、
「わからないから一緒に考えよう」という合言葉が、
当たり前に飛び交う就労継続支援B型事業所でありたい――。
それが、Lumoとして大切にしたい姿です。
おわりに――あなたの職場ではどうですか?
最後に、読んでくださっているあなたに、そっと問いかけさせてください。
- あなたの職場には、「職業指導員なんだから、できて当然」という空気はありませんか?
- 「そんなこともわからないの?」という言葉が、誰かの口ぐせになっていませんか?
- 「わからないから一緒に確認しよう」と言える関係は、どれくらい育っているでしょうか?
常識だと思ってきた「支援者は完璧であるべき」という考え方を、少しだけ疑ってみる。
「人は忘れる」という当たり前の前提から、支援のかたちを組み立て直してみる。
その小さな一歩が、職場全体の空気を変えるきっかけになるかもしれません。
僕自身も、決して完璧な支援者ではありません。
だからこそ、間や不完全さを大切にしながら、スタッフのみんなと、利用者さんと、一緒に解決していける現場を目指していきたいと思います。

はじめまして、サービス管理責任者の本多 楓です
Lumo岡山東区店で働きはじめてわずか半年。
――その間に、利用者さんの「できる」を伸ばしながら黒字化という目標を達成しました。
定員20名なのに見学待ちの行列。
毎週のように「次、空きはありませんか?」とお問い合わせをいただき、嬉しい悲鳴をあげています。
どうして行列ができるの?
- “支え合う”という文化
ここでは「助ける/助けられる」ではなく、みんなが支え合うことを大切にしています。
だからこそ、一人ひとりが自分らしく挑戦できる空気が生まれます。
▶ 就労継続支援B型事業所 Lumo岡山東区店(公式サイト)
- 仕事を“楽しく”設計
ゲーム実況やSNS運用、ものづくり作業など、得意を活かせる多彩なタスクを用意。
「やってみたい!」が自然に湧きあがる現場です。 - 数字で見える成長
初月から工賃を可視化し、スタッフ・利用者さん・ご家族が同じゴールを共有。
成果が見えるから、次のチャレンジが楽しみになります。
これからブログで発信すること
- 利用者さんの成長ストーリー:
小さな一歩が未来につながる瞬間をレポートします。 - Lumo流“黒字化メソッド”:
就労継続支援B型でもしっかり収益を上げる仕組みを公開。 - 地域を巻き込むアイデア:
見学者の行列を“地域の魅力”に変える取り組みを紹介。
最後に
「みんな違って、みんながいい」――
そんな社会を、ここ岡山から広げていきたい。
これは私の原動力であり、Lumoの未来です。
ブログでも、現場で起きるリアルな“ありがとう”をたくさん綴っていきますので、どうぞお楽しみに!