てんかんの持病があり、過去に何度も発作で意識を失っていた男性が、免許更新時の質問票で病気のことを隠して「いいえ」と虚偽の申告をしました。
その4日後、運転中にてんかん発作で意識を失い、赤信号で停止していた車に追突して運転手の方が亡くなり、さらに別のトラックの運転手もケガを負う重大な事故となりました。
男性は医師から「運転は控えるように」と繰り返し助言を受けていたことや、処方された薬もきちんと服用していなかったことなどが裁判で問題となり、懲役5年の実刑判決が言い渡されています。
てんかん事故のニュースをきっかけに、「障害特性をどう支えあうか」をあらためて考えさせられました。
てんかんそのものよりも、障害特性や持病を隠してしまうことのリスクと、「知ってもらうこと」の大切さについて整理してみたいと思います。
「もし、この人の障害や特性が、もっと早く、安心して打ち明けられていたら何か違っただろうか?」
そして同時に、
「自分の障害や持病を伝えることは、“リスク”なのか。それとも“支え合うためのヒント”なのか。」
Contents
1.てんかん発作による死亡事故

免許更新時に病気を隠し、4日後に重大事故
報道によると、静岡県浜松市の40代の男性は、てんかんの持病があり、
過去5年以内に発作で何度も意識を失っていました。医師からは繰り返し「車の運転は控えるように」と助言されていたにもかかわらず、
2023年7月6日の運転免許更新の際、質問票の以下の項目にすべて「いいえ」と回答していました。
- 過去5年以内に、病気が原因で意識を失ったことがあるか
- 過去5年以内に、病気が原因で身体が一時的に動かなくなったことがあるか
- 医師から運転を控えるように助言を受けたことがあるか
実際にはすべて「はい」に該当する状態だったにもかかわらず、虚偽申告によって免許は更新されました。
その4日後の7月10日、運転中にてんかん発作で意識を失い、赤信号で停車していた車に追突。
追突された車の運転手は死亡し、さらに別のトラックにも衝突して運転手がケガを負うという重大事故になりました。
事故当時、処方されていたてんかんの薬も適切に服用していなかったとされています。https://news.yahoo.co.jp/articles/0b33228f618d72cc43f49abe45757257a487c715
裁判所は「病気そのもの」ではなく「行動」を厳しく判断
裁判で男性側は、「免許更新時に嘘をついたこと」は認めつつも、
「事故当日は運転を始める前から発作が始まっており、責任能力がなかった」と主張しました。
しかし裁判所は、以下のような点から責任能力はあったと判断しています。
- 運転開始時点では発作は起きていなかった
- 発作が出るまでは、信号や交通ルールを守り、周囲の状況を把握しながら通常通り運転していた
- 発作中や意識がもうろうとした状態ではできないような複雑な行動ができていた
つまり、「危険性を理解しながら、自分の意思で運転を開始した」と認定されたわけです。
判決は懲役5年。
医師の助言を無視し、免許更新時に虚偽申告をし、薬もきちんと飲まずに運転したという一連の行動に対して、
「他人の生命を軽視するその意思決定は厳しく非難されるべきだ」と裁判所は述べています。
2.「てんかん=運転してはいけない」ではない――ニュースを読み解く視点

運転免許と質問票のしくみ
このニュースだけを見ると、
「てんかんの人は運転しちゃダメなんだ」と受け取ってしまいがちですが、実際の制度や運用はもう少し繊細です。
日本では、免許の取得・更新の際に「一定の病気等に関する質問票」を提出します。主な質問は次のような内容です。
- 過去5年以内に、病気が原因または原因不明で意識を失ったことがあるか
- 過去5年以内に、病気が原因で身体が一時的に動かなくなったことがあるか
- 日中の強い眠気が頻繁にあるか
- アルコール依存に関する項目
- 病気を理由に、医師から運転を控えるよう助言を受けたことがあるか
ここで正直に「はい」と回答したからといって、即座に免許取消になるわけではありません。
その後、公安委員会による聴取や、医師の診断書の提出、必要に応じた検査などを経て、一人ひとりの状態を確認していくプロセスが用意されています。
今回の記事では免許制度の細かな条件には踏み込みませんが、
私が大事だと感じるのは、
「病名だけで一律に判断されるのではなく、本来は『安全に運転できる状態かどうか』を個別に確認する仕組みがある」ということです。
そして、その仕組みをきちんと働かせるためには、
本人の「正確な自己申告」が前提条件になるという点です。
言いかえると、今回の事件は、
「てんかんそのものが問題だった」というよりも、
「自分の状態を隠し、制度が用意していた安全確認のプロセスを、自らすり抜けてしまったこと」が大きな問題だったと捉えることもできます。
ここから見えてくるのは、運転免許に限らず、
「自分の障害特性や持病をどう伝えるか」が、命と生活を守るうえでどれほど重要かというテーマです。
3.なぜ人は障害や病気を隠してしまうのか

隠してしまう背景には「傷つきたくない気持ち」がある
ここで一度、当事者の側の気持ちにも目を向けてみたいと思います。
私たちはよく、「正直に言ってくれたらよかったのに」と言います。
ですが実際には、障害や持病、メンタルの不調などを打ち明けることには、こんな不安がつきまといます。
- 嫌な顔をされるのではないか
- 「面倒な人」と思われて仕事やシフトを減らされるのではないか
- 噂として広がってしまうのではないか
- 「自己管理ができていない」と責められるのではないか
過去に傷ついた経験がある人ほど、「話したら不利になるかもしれない」という恐怖が強くなります。
その結果、
「言わないことで身を守る」という選択をせざるを得ない状況も、現実にはあるのだと思います。
「配慮」ではなく「排除」につながってしまったケースも
本来であれば、障害や病気についての自己申告は、安全に働き続けるためのスタート地点のはずです。
しかし、
- 診断名を出した途端に面接に落ちた
- 職場に伝えたら、責任ある仕事から外されてしまった
- 「そういう人だったんだ」と距離を置かれた
こうした経験は、「配慮」ではなく「排除」につながってしまった例と言えます。
それを見聞きしていればなおさら、「自分も黙っていた方がいいのかな」と考えてしまうのは、ある意味自然な反応なのかもしれません。
4.それでも「知ってもらうことは支え合いのヒント」だと思う

知ってもらうことで守られる命と生活がある
それでもなお、私は今回のてんかん事故のニュースをきっかけに、
「障害や特性、持病を伝えることは、リスクではなく支え合うためのヒントだ」という考えを、いっそう強くしました。
なぜなら、情報が共有されていれば、福祉事業所や職場では次のような対策が事前に取れるからです。
- 発作や体調悪化のリスクが高い時間帯の運転や危険な作業を避ける
- 服薬や通院のサポートを検討し、自己管理を一人で抱え込ませない
- 発作やパニックが起きたときの対応方法を考えることができる
- 苦手な環境(音・光・人混みなど)を事前に調整する
こうした工夫は、「他者の命を守る」だけでなく、「当事者本人の暮らしや働き方を守ること」にも直結します。
「当事者だけの責任」にしないことが大前提
ここで忘れてはいけないのは、
「必要な情報を伝える責任」を、当事者だけに押しつけないという視点です。
「きちんと申告しないから事故が起きた」と言って終わりにするのではなく、
受け取る側である事業所や職場、社会全体が、
- 安心して打ち明けられる雰囲気をつくる
- 打ち明けてくれた情報を適切に扱う
- その情報をもとに、現場のルールや体制を一緒に工夫する
ここまで含めてはじめて、「命と生活を守るための共同責任」と言えるのではないでしょうか。
5.就労継続支援B型など福祉事業所にできる5つの工夫

① 聞き取りの前に「なぜ聞くのか」を伝える
初回面談やアセスメントで、いきなり「持病は?」「診断名は?」と聞かれると、多くの人は身構えます。
その前に、たとえば次のようなひと言を添えることができます。
「これからお伺いする内容は、あなたを評価したり、ダメ出しするためのものではありません。
どうすれば安全に、無理なく、安心して通えるかを一緒に考えるための材料として聞かせてください。
今、話しづらいことは、後からゆっくりお話しいただいても大丈夫です。」
こうした前置きがあるだけでも、「ここなら話してもいいかもしれない」と感じていただける可能性が高くなります。
② 情報の共有範囲を本人と一緒に決める
「話したことが、どこまで広がってしまうのか分からない」という不安を減らすために、次のような確認を一緒に行うことができます。
- この情報は、どのスタッフまで共有してよいか
- どの場面で活用してほしいか(送迎時・作業中・通院同行など)
- 記録の残し方について、どんな配慮があれば安心か
情報の扱い方を「一方的に決める」のではなく「一緒に決める」ことで、「何もかも裏で回ってしまう」感覚を和らげることができます。
聞いたうえで「このように対応しますね」「この情報は何のためにスタッフに共有するのか」も確認と同意をとれると良いです。
③ 「診断名」ではなく「困りごとと工夫」で記録する
記録上、「ADHD」「うつ病」「てんかん」と書くだけでは、具体的な支援のイメージは湧きません。
そこで、診断名とは別に、次のような形で残していきます。
- 「時間の感覚がずれやすく、集合時間を勘違いしやすい。作業前に口頭で再確認があると安心」
- 「午前中はエンジンがかかりにくく、午後の方が集中しやすい」
- 「発作時には〇〇という順番で対応してほしいと本人希望あり」
こうすることで、記録が「ラベル」ではなく「支え合うための具体的なヒント」に変わっていきます。
④ 「伝えてくれて助かった」を必ず言葉にする
障害や持病について話すことには大きな勇気が必要です。
その勇気に対して、支援者側ができるもっともシンプルで大切なことは、「言葉で感謝を伝えること」です。
たとえば、
- 「事前にてんかんのことを教えてくださっていたおかげで、今日の対応がスムーズにできました」
- 「しんどくなりやすい時間帯を教えてくださったので、作業を調整できました」
こうしたフィードバックを重ねることで、
「言ったら不利になる」から「言ってよかった、守られた」という感覚へ、少しずつ変わっていきます。
⑤ Lumoとして大切にしたいスタンス
岡山市東区の就労継続支援B型Lumoでも、
障害や特性、持病のことを「隠すべき情報」ではなく、
一緒に働き方や暮らし方を考えるための大事なヒントとして受け止めたいと考えています。
「どこまで話していいか分からない」「こんなこと言ったら迷惑かも」――。
そんな迷いごとも含めて、一緒に相談できる場所でありたいと思っています。
6.当事者が安心して伝えるためのヒント

いきなり全部ではなく「話せるところから」でいい
もしこの記事を読んでくださっているあなたが当事者で、
「本当は伝えた方がいいと分かっているけど、怖くて言えないこと」を抱えているなら……。
私は、いきなりすべてを話そうとしなくて良いと思っています。
まずは、
- 一番信頼できそうなスタッフに
- 一番困っていることだけ
- 日々の生活や通所に直接影響している部分から
こうした「話せるところから」少しずつ共有していくだけでも、支え合い方は変わっていきます。
「どう扱ってほしいか」まで一緒に伝えてみる
可能であれば、「情報そのもの」だけでなく、「どう扱ってほしいか」も一緒に伝えてみてください。
- 「このことは、〇〇さんと〇〇さんだけに共有してほしい」
- 「記録には残してもいいけれど、家族にはまだ伝えないでほしい」
- 「発作が起きたときは、周りに大ごとにせず静かに対応してほしい」
そう伝えてもらえると、支援者側としても、あなたが安心できるような関わり方を考えやすくなります。
7.まとめ――明日会えるとは限らないからこそ

明日も同じメンバーで顔を合わせられる。
明日も同じように車を運転できる。
明日も同じように事業所に通える。
そう思っていても、実際には私たちは誰も、「明日が当たり前に来る」ことを保証されてはいません。
だからこそ、
自分の障害や特性、持病を伝えることを「リスク」ではなく、「命と生活を守るためのヒント」だと捉え直していきたいと、私は感じています。
もちろん、伝える側の勇気だけに頼るのではなく、
「安心して打ち明けられる場とルール」を整えることは、福祉事業所や社会の側の責任ともいえます。
就労継続支援B型Lumoとしても、
「話してくれてよかった」「伝えたことで守られた」と実感していただける関わりを、日々の支援の中で積み重ねていきたいと思っています。
あなたは、もし信頼できる誰かが目の前にいたとしたら、どこからなら少し話してみてもいいと感じますか。
その「一歩目」を一緒に探すことが、きっと支え合いのはじまりになるのだと思います。

はじめまして、サービス管理責任者の本多 楓です
Lumo岡山東区店で働きはじめてわずか半年。
――その間に、利用者さんの「できる」を伸ばしながら黒字化という目標を達成しました。
定員20名なのに見学待ちの行列。
毎週のように「次、空きはありませんか?」とお問い合わせをいただき、嬉しい悲鳴をあげています。
どうして行列ができるの?
- “支え合う”という文化
ここでは「助ける/助けられる」ではなく、みんなが支え合うことを大切にしています。
だからこそ、一人ひとりが自分らしく挑戦できる空気が生まれます。
▶ 就労継続支援B型事業所 Lumo岡山東区店(公式サイト)
- 仕事を“楽しく”設計
ゲーム実況やSNS運用、ものづくり作業など、得意を活かせる多彩なタスクを用意。
「やってみたい!」が自然に湧きあがる現場です。 - 数字で見える成長
初月から工賃を可視化し、スタッフ・利用者さん・ご家族が同じゴールを共有。
成果が見えるから、次のチャレンジが楽しみになります。
これからブログで発信すること
- 利用者さんの成長ストーリー:
小さな一歩が未来につながる瞬間をレポートします。 - Lumo流“黒字化メソッド”:
就労継続支援B型でもしっかり収益を上げる仕組みを公開。 - 地域を巻き込むアイデア:
見学者の行列を“地域の魅力”に変える取り組みを紹介。
最後に
「みんな違って、みんながいい」――
そんな社会を、ここ岡山から広げていきたい。
これは私の原動力であり、Lumoの未来です。
ブログでも、現場で起きるリアルな“ありがとう”をたくさん綴っていきますので、どうぞお楽しみに!