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ニュースの概要
障がい者の就労支援に関する給付金を数十億円規模で不正に受け取っていた疑いが明らかになりました。就労継続支援A型事業所5か所で、利用者の障がい者を半年間だけ一般企業などで働かせる制度を悪用し、給付金を過大請求していたとされています。現在監査に入り、給付金の返還請求などを検討しています。また、過去3年間に1億2千万円以上の給付金を過大受給して指導を受けていたことも判明しました。
参考記事:【独自】障害者雇用の給付金過大受給の疑いで監査受ける福祉事業会社 過去にも1.2億円の過大受給で大阪市が指導
グループ側は「個別事案にはお答えを控える」とコメントしています。
今回明るみに出た不正の手口は、利用者をグループ内で短期間「就職」させ、一定期間経過後に元の事業所に戻すことを繰り返すというものです。実際の作業内容はほとんど変わらないまま雇用形態だけを切り替え、半年働くごとに給付金の加算を何度も受け取るという仕組みでした。この操作によって、2024年度以降だけでも20億円以上もの公的給付金を不正に得ていた疑いがあります。障がい者支援の本来の目的を逸脱した悪質な行為であり、厚生労働省も「制度の趣旨に反する」として厳しく対処する姿勢を示しています。
就労支援制度と「加算金」の仕組み
今回の問題を理解するために、障がい者就労支援事業所の報酬制度について整理しましょう。就労継続支援A型・B型事業所では、利用者が事業所で活動した日数や作業時間に応じて事業所に給付金(報酬)が支払われる仕組みになっています。これらの給付金の約9割は国や自治体など公費で賄われており(利用者負担は原則1割、条件により減免)、事業所は毎月、利用者の活動実績を自治体へ報告し、それに基づいて給付金が支給されます。いわば医療保険の診療報酬のように、公的資金から施設運営費が支払われる構造であり、自治体は事業所からの申請内容を基本的に信頼して給付金を支払います。したがって、事業所が虚偽の実績を申請してしまえば、多額の公費を不正に得られてしまう危険性があります。
特にA型・B型事業所には、一定の条件を満たすと事業所の収入が増える「加算金」の制度があります。例えば「就労移行支援体制加算」と呼ばれるものが代表的で、利用者が一般企業に就職して6か月以上働き続けた場合に事業所へ追加給付が支給されます。この加算金は、障がい者が職場に定着することを促すためのインセンティブであり、本来は「一般就労への橋渡しが成功した事業所」を評価する目的で設けられています。
ただし、この加算金の算定方法には落とし穴があります。加算額は「前年度に半年以上の一般就労を達成した利用者数」と「当年度の事業所の延べ利用者数」の掛け合わせで算出される仕組みになっており、一般就労者が増えるほど事業所の報酬が跳ね上がる計算です。今回の不正では、まさにこの制度の穴を突く形で、グループ内で利用者を形式的に就職⇄退職させては戻すことを繰り返し、同じ人を何度も“半年就労の実績”として計上していたのです。給付金の支払いは一旦大阪市(基礎自治体)が負担し、最終的にその3/4を国と都道府県が公費で負担する仕組みですので、結果的に国民の税金が不正に浪費されていたことになります。
なぜ不正が起きてしまうのか?
このような不正受給が起こってしまう背景には、いくつかの要因があります。
第一に制度上の盲点です。前述のように、就労移行支援体制加算のルール上、同じ法人内であっても形式上「一般就労→半年後退職→再利用」というサイクルを回すだけで報酬を増やせる状態になっていました。本来であれば想定されていなかった抜け道ですが、制度改正が追いつかず悪用を許してしまいました。
第二に監査・チェック体制の甘さも指摘されています。大阪市はグループの給付金請求額の異常な膨張を察知し厚労省にも報告していたものの、実態解明には時間がかかりました。内部からの告発や通報がなければ、発覚がさらに遅れた可能性もあります。
そして何より大きな要因が、一部事業者の「利益至上主義」的な経営姿勢です。【本来は障がい者支援が目的のはずが、いつの間にか給付金を稼ぐこと自体が目的になってしまっている】ケースが後を絶ちません。いわば障がい者を“加算金を得るための道具”のように扱ってしまったことが問題の本質と言えるでしょう。こうした事業者は制度の前提である信義則(正直に実績報告をすること)を逆手に取り、不正な利益を追求してしまいます。
実際、障害福祉サービス業界では近年こうした不正請求が各地で相次いでおり、行政処分も増加傾向にあります。ある調査によれば、2019~2023年度の5年間で全国427件、総額58億円以上もの不正受給が確認されています。手口としては「実際には行っていない支援を実施したと偽装」「支援時間を水増し」「資格のない職員でサービス提供したことにする」など様々ですが、本質的には「目先の利益を優先し、支援の質や倫理をないがしろにした」点で共通しています。
このビジネスを安易に“儲け話”と捉える参入者がいるのも事実です。本来は障がい者と社会をつなぐことが使命であるにもかかわらず、利益至上主義の考え方が蔓延すると制度の隙間を突く不正が出てきてしまいます。例えば就労継続支援B型事業の開業に関して、一部では「利益率40%以上も可能」「経常利益4,000万円超も多数」などと収益性を過度に強調する宣伝も見られます。確かに国からの給付金が主な収入源であるため、利用者さえ集まれば安定した売上が見込めるビジネスではあります。しかし、そのようにお金儲けを第一に考える姿勢では、本来守るべき障がい者支援の質が置き去りにされかねません。制度は「申告された実績は正しい」という前提で成り立っていますが、その善意の前提を逆手にとってしまう人が出てくるのは非常に残念なことです。
問題の本質はどこにあるのか
今回のケースで忘れてはならないのは、障がい者本人が主役であるという原点です。本来、就労継続支援A型・B型事業所は、一般企業での就職が難しい障がい者の方々に働く機会や訓練の場を提供し、少しでも社会で活躍できるようサポートするために存在しています。にもかかわらず、この事業所グループは利用者が一般企業に就職できたという成果を、本当の意味では喜んでいなかったように見えます。半年経ったら辞めさせて戻し、また別の会社に就職させる──障がい者の方にとっては職歴だけ増えて安定したキャリアにはならず、むしろ振り回されて心身の負担が大きかったのではないでしょうか。
つまり、制度の趣旨である「障がい者の就労支援」ではなく、「給付金の水増し」が目的になっていた点こそが最大の問題です。これは障がい者支援業界全体の信頼を損ねる行為であり、社会的弱者に対する一種の「暴力」と言っても過言ではありません。実際、元利用者からも「形ばかりの支援でほとんど指導もなかった」「給付金の額が高すぎて不信感を抱いた」といった声が報じられており、当事者のためになっていないどころか、貴重なスキルアップの機会を奪いモチベーションを下げる結果を招いていました。
しかし忘れてはいけないのは、大多数の障害者支援事業所は真摯に利用者の自立や成長に取り組んでいるということです。
【一部の悪質事例があるからといって、「障害者就労支援はみんな怪しい」などと誤解してほしくありません】。
むしろ全国の多くの事業所では、利用者の賃金アップやスキル習得に真剣に向き合い、一般就労への橋渡しという本来の使命を全うしています。問題の本質は、障がい者を社会につなげるという目的を見失い、お金のために利用してしまった一部事業者にあるのです。支援の目的は制度を食い物にすることではなく、一人ひとりの可能性を見出して社会につなげていくことに他なりません。
本当に良い福祉事業所を見分けるポイント
では、利用者やご家族の立場から安心して任せられる福祉事業所を選ぶには、どんな点に注意すればよいでしょうか。いくつかチェックすべきポイントを挙げてみます。
理念や運営方針が明確か:事業所のホームページやパンフレットを見て、どのような支援内容・活動を掲げているかを確認しましょう。その中に「障がい者の自立支援」や「地域とのつながり」といったキーワードが具体的な言葉で示されているか注目してください。たとえば「利用者が安心できる居場所づくり」「社会で活躍できる人材育成」といった具体的な理念が語られていれば、支援の方向性がしっかりしていると考えられます。逆に、「利用者獲得○人!」など数字ばかり強調していたり、理念があいまいな事業所は注意が必要です。また利用者の工賃(水準)についても事前に把握し、適切な額かどうか見ておきましょう。
情報収集と評判の確認:事業所の公式サイトだけでなく、SNSやブログなどで日々の活動報告や利用者の声を発信しているかもチェックポイントです。日常の様子やスタッフのコメントをオープンに公開している事業所は、運営が透明で開かれている証拠です。加えて、インターネット上の口コミや評判も参考になります。最近ではAI検索などで評判を調べる人もいますが、実際に利用した方やその家族の生の声(口コミサイトやSNS上の投稿)に目を通すことで見えてくることも多いでしょう。「○○事業所 評判」「○○事業所 不正」など検索してみて、不安な情報がないか確認するのも一つの手です。
また、お住まいの自治体の福祉担当や相談支援専門員(ケースワーカー)に「この事業所は信頼できるでしょうか?」と相談してみるのも有効です。自治体職員は事業所の指定や監査に関わっているため、何か問題があれば把握している可能性があります。
見学や体験利用をする:百聞は一見にしかず、気になる事業所があれば実際に足を運んで見学や体験利用をしてみましょう。施設の雰囲気や清潔さ、スタッフの利用者への接し方、利用者同士の表情など、現場を見ることで分かることは多いです。
見学の際には「個別支援計画はどのように立てていますか?」「就職実績はどのくらいありますか?」「工賃(給与)は平均どれくらいですか?」といった具体的な質問もしてみましょうl。丁寧に答えてくれる事業所であれば、運営の透明性も高いと言えます。逆に回答をはぐらかしたり明確に説明できないようであれば、不信感が残るかもしれません。相談しやすい雰囲気かどうか、スタッフと相性が合いそうかといった直感的なポイントも大切です。利用者や家族が困ったときにすぐ相談・対応してもらえる体制か、自分の目で確かめてみてください。
利益至上の広告に注意:前述のように、「B型は儲かる」「フランチャイズ募集!○○万円収益保証」といった宣伝文句を前面に出している事業者には注意が必要です。【福祉事業であるにも関わらず利益ばかり強調する姿勢は、本来の目的よりビジネス優先である可能性】が高いでしょう。もちろん事業の継続には経営も大事ですが、あまりに「儲かります」「高収益です」といった売り文句ばかりの情報発信をしている所は、利用者目線のきめ細かな支援よりも数値目標を追う傾向があるかもしれません。実際、B型事業所フランチャイズの広告を見ると「利益率40%以上も可能」「安定した売上が見込める」といった謳い文句が見受けられます。こうした宣伝に惹かれて参入してくる事業者には要注意です。
以上のポイントを踏まえ、複数の事業所を比較検討しながら「ここなら信頼できる」という所を選ぶことが大切です。焦らずじっくり情報収集し、納得できる施設を見極めてください。
御津電子グループ(私たち)の取り組み
ここまで不正受給のニュースと事業所選びのポイントについて解説してきましたが、最後に私たち御津電子グループの取り組みについて少しご紹介させてください。私たちは本業の製造業で培ったノウハウを活かし、2023年より岡山県で就労継続支援B型事業所「Lumo(ルーモ)岡山東区店」を運営しています。
「障がい者と社会をつなぐ」ことを使命として掲げ、PC入力やものづくり作業、動画配信など多彩な業務を通じて、一人ひとりの利用者が自分に合った働き方を選択できる環境を提供しています。
B型事業所であるLumoでは、ものづくり作業を通じて障がいのある方々に社会参加の機会を提供することに力を入れています。例えば、毎日コツコツとできる簡単な軽作業や手作業をお願いし、完成品ができあがる達成感を味わってもらうよう工夫しています。単純作業の積み重ねかもしれませんが、「自分にもできる仕事がある」「役に立てることがある」という経験が利用者の自己効力感(自信)を取り戻すことにつながります。私たちのモットーは「ものづくりは幸せづくり」。利用者さんの「できた!」という笑顔が増えるよう、スタッフ一同サポートしています。
また、利用者がステップアップを目指せるよう支援することも大切にしています。就労継続支援B型は無理のないペースで働ける場ですが、ゆくゆくは一般就労に挑戦したいという方もいます。そうした希望を持つ方には、簡単な作業だけでなくパソコン作業や創作的な業務にもチャレンジしてもらい、スキルアップの機会を提供しています。実際、当事業所から一般企業の採用試験に合格したケースも出始めており、「施設から卒業して社会人として羽ばたいていく」のが私たちのゴールでもあります。
私(人見雄一)がこの分野に取り組む背景には、実は創業者の大賀(おおが)さんのご家族にも障がいを持つお子さんがいらっしゃったことから、「障がい者が生き生きと活躍できる会社を作りたい」という理念が御津電子グループには根付いていました。私自身もその意思を受け継ぎ、ものづくり企業として障がい者と社会の架け橋になる新規事業に挑戦しています。だからこそ、どんなに抜け道があっても不正な手段で利益を追求するようなことは決してしないと固く決めています。私たちにとって大切なのは数字上の利益よりも、利用者さんやご家族の笑顔や成長です。その積み重ねが結果的に事業の信頼と発展につながると信じています。
まとめ
障がい者の就労支援をめぐる大規模な不正受給事件について、その概要と背景、そして本当に良い施設の選び方について見てきました。一部の心ない事業者による不正は非常に腹立たしく残念なことです。しかし、この問題を契機に私たち支援者側も改めて襟を正し、障がい者支援の本質的な価値を再確認する必要があります。
幸い、世の中のほとんどの事業所は真面目に利用者のために尽力しており、着実に成果を上げています。私たちも含め、支援者一同が誠実に真心を込めて歩み続けることで、障がいのある方とその家族が安心して笑顔で暮らせる地域社会を築いていきたいと思います。
利用を検討されている皆さんには、ぜひ焦らずに信頼できる施設かどうかを見極めていただきたいです。制度の悪用に走る事業者はごく一部であり、もし何か不安を感じることがあれば遠慮なく行政や専門機関に相談してください。障がい者雇用の本当の目的は、利益ではなく人を活かすことです。私たち支援者もその原点を決して忘れず、利用者の可能性を信じて社会につなげるお手伝いをこれからも続けてまいります。
参考資料:
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MBSニュース(Yahoo!ニュース)、https://news.yahoo.co.jp/articles/22e8b62fc028ccce55c29bde17d4f45f0c3868bd newsdig.tbs.co.jpnewsdig.tbs.co.jp
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産経新聞(産経ニュース)、https://www.sankei.com/article/20251102-JZMTQR5T3NKQBDBHVLVM3K4KMY/ okinawatimes.co.jpokinawatimes.co.jp
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CHOTTO NEWS、https://chotto.news/kizuna-holdings-suspected-of-receiving-illegal-benefits-uncovering-the-darkness-of-support-for-continuous-employment-type-a-businesses-and-discovering-the-truth-about-employment-of-persons-with-disab/ chotto.newschotto.news
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沖縄タイムス+プラス(共同通信)、https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1707054 okinawatimes.co.jpokinawatimes.co.jp
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御津電子株式会社 プレスリリース、https://mitsudenshi.co.jp/11092/ mitsudenshi.co.jpmitsudenshi.co.jp
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就労継続支援B型事業所 Lumo岡山東区店ブログ、https://lumo-okayama.jp/2407/ lumo-okayama.jplumo-okayama.jp
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森野ピロン氏のnote記事、https://note.com/happymiyu/n/nc7144dae8efd note.comnote.com
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株式会社GLUG コラム、https://glug.co.jp/column/welfare/004
