B型事業所の不正受給問題と信頼できる事業所の見分け方

大切なポイント

こんにちは。岡山障害者就労支援センター Lumo の人見です。
今回は、岡山県内で発覚した就労継続支援B型事業所による不正受給問題を中心に、その原因や背景を初心者にもわかりやすく解説します。また、中小製造業の経営者の皆様に向けて、信頼できる事業所を見分ける具体的なポイントや、事業所と連携するときに注意すべき点もお伝えしたいと思います。
社会の信用を揺るがす不正問題ですが、正しく理解し適切に対処することで、障がいのある方の就労支援をより良いものにしていけるはずです。

就労継続支援B型事業所とは?ビジネスモデルの基本

Lumo岡山の外観まず、就労継続支援B型事業所(以下、B型事業所)の仕組みを整理しておきましょう。
B型事業所は、一般企業で働くことが難しい障がいのある方に対し、働く場と就労訓練の機会を提供する福祉サービスです。
利用者は事業所と雇用契約を結ばずに、自分の体調やペースに合わせて通所し、その対価として「工賃」と呼ばれる報酬を受け取ります。
一方、事業所側は利用者の「働いた実績」に応じて、国や自治体から訓練等給付費という報酬を受け取る仕組みになっています。

この給付費は公費(国・自治体)で約9割がまかなわれ、利用者本人の自己負担は原則1割程度です(自治体によっては利用者負担が無料になる制度もあり、低所得の利用者でも安心して利用できます)。つまりB型事業所の運営収入は、公的給付金に大きく依存するビジネスモデルと言えます。
そのため、事業所は毎月、各利用者の通所日数や作業時間・内容を詳細に記録し、自治体へ報告します。この実績データをもとに給付費が支払われる仕組みであり、言い換えれば「事業所の申告」に基づいて公費が支出される、性善説に立脚した制度とも言えるでしょう。

B型事業所では利用者に支払う工賃は一般就労の給与より低く抑えられがちですが、それでも事業所ごとに工夫を凝らし少しでも工賃を上げようと努力しています。
厚生労働省の調査によれば、令和5年度(2023年度)時点の全国平均工賃月額は約23,053円で、前年より上昇しています。近年の報酬改定では、平均工賃が高い事業所ほど基本報酬が加算される仕組みも強化されました 。これは事業所が利用者に還元する工賃を増やすほど、事業所自身も収入が安定するインセンティブになっています。優良な事業所ほど利用者のやりがいや経済的自立を重視し、工賃アップに真剣に取り組んでいるものです。

以上がB型事業所の基本的なビジネスモデルです。
公的資金で成り立ち、利用者には低負担でサービスを提供する一方、その運営は利用者の作業実績の報告に委ねられている点がポイントです。この構造自体は、多くの障がい者に就労の場を提供するための大切な制度ですが、残念ながらこの仕組みを悪用して不正に給付金を受け取る事例が各地で問題となっています。

不正受給はなぜ起きる?仕組みと原因

なぜ?原因は?前述のように、B型事業所では給付費の請求額が利用者の「活動実績」に基づいて決まります。
例えば、本当は1日2時間程度しか作業していない利用者について、「終日6時間以上利用した」と虚偽の記録を提出すれば、それに応じて事業所に支払われる報酬額は大きく増えてしまいます。また、実際には提供していない支援サービスを「提供した」と偽ったり、資格要件を満たさない職員をあたかも配置しているよう装って加算報酬を受け取るなど、さまざまな不正の手口が報告されています。要するに、書類上の申告を水増しすることで公的給付金を余分にせしめる余地が制度上存在してしまっているのです。

不正が後を絶たない背景には、いくつか原因が指摘できます。
一つは制度の構造上、事業所からの報告に頼らざるを得ない「監督体制の限界」です。
自治体も監査を行っていますが、人手不足や専門スタッフの不足から全ての事業所を十分にチェックしきれず、悪質な事業者の不正を見抜くのに時間がかかるケースがあります。
また、多くの事業所は熱意を持って利用者支援に当たっていますが、中には補助金ビジネス的な発想で「利用者のため」より「給付金をできるだけ多く得ること」を優先してしまう事業者も存在します。公費による報酬さえ入れば一応事業として成り立ってしまうため、利用者の工賃や支援内容は二の次で、制度の隙をついて収益をあげようとするのです。「利用者が本当に働いているだろう」「事業所は適切に訓練をしているはずだ」という善意の前提を逆手に取られると、制度は脆い一面を晒すことになります。

さらに、不正の温床となるもう一つの要因は、給付費の算定構造の複雑さです。
就労継続支援には様々な加算制度(例えば一般就労に何人送り出したかによる加算、サービス提供体制強化加算 等)があり、本来は質の高い支援を評価するものですが、悪質な事業者はこの加算要件を偽装して報酬を吊り上げることもあります。最近大きく報道された例では、大阪のある事業者が利用者を定期的に「一般就労したことにする」→「またB型に戻す」を繰り返し、一人の利用者を何度も就職・離職したように偽装することで就労定着率の加算を不正に積み増し、数十億円規模の過大請求を行っていた疑惑もありました 。このように制度の複雑さゆえに生じた抜け穴も、悪用しようとする者にとっては魅力的に映ってしまうのでしょう。

要因をまとめると

  • 公費負担による報酬制度が善意を前提としていること
  • 行政の監査リソースが不足していること
  • 請求ルール・加算制度が複雑で抜け道があること
    ——これらが重なり、一部の不心得な事業者による不正受給を招いているのです。

岡山県内で発覚した不正受給の実例

お金を数える写真こうした不正受給問題は全国で相次いでいますが、ここ岡山でも実際に事件が明るみに出ています。その一つが倉敷市で発覚したケースです。
倉敷市老松町にある就労継続支援B型事業所(NPO法人コウチが運営)は、2023年12月から2025年8月にかけて、本来は提供していないサービスを提供したように装い、給付費約447万円を市に不正請求・受領していたことが判明しました。倉敷市はこの事業所に対し、2025年12月末付で障害福祉サービス事業者の指定取消処分を決定するとともに、不正受給した給付費の返還と加算金を合わせた約630万円の支払いを求めています 。現在この事業所の利用者は29名いますが、市は利用者への支援継続に支障が出ないよう指導するとのことです 。

倉敷の事例では、「提供していないサービスの提供を偽装する」典型的な手口が使われました。おそらく事業所は一部利用者について実態以上の活動記録を作成し、出席日数や作業時間を水増ししていたのでしょう。市への匿名の苦情や内部告発等を契機に調査が進み、不正が露見したものと考えられます。
今回、行政処分という厳しい対応が取られましたが、それも当然と言えます。この事業所では不正に得たお金で運営が維持されていたわけで、真面目に運営している他の事業所や、何より利用者本人たちを裏切る行為だからです。

岡山県内では他にも、玉野市で不正受給事件が起きています。
2025年8月、玉野市の社会福祉法人「瀬戸内会」の元代表理事(当時84歳)ら2名が、2018年末から2019年にかけて利用者の出勤実績を虚偽にでっち上げ、計約160万円の給付金を騙し取った容疑で逮捕されました。このケースでは法人側から警察に相談があり捜査につながったようですが、背景にはその法人が2016~2020年頃に約1億円もの不正受給を行い返還が滞った問題もあったと報じられています。玉野市では給付金返済の滞りを受けて法人の土地資産を差し押さえる事態にまで発展しており、不正が組織ぐるみで長期間続けられていた可能性が示唆されました。

これら岡山の事例からも分かるように、不正受給は決して一部地域の特殊な事件ではなく、制度の隙をつけばどこでも起こり得る問題です。
実際、全国的な傾向を見ても深刻で、中日新聞の全国調査によれば2019~2023年度の5年間で427件もの行政処分事例が確認され、不正受給総額は58億円超に上るとされています。手口として多いのは前述のとおり「実際には行っていない支援の偽装」「水増し請求」「無資格職員によるサービス提供の偽装」などで、まさに岡山で起きたものと同様のパターンが全国で頻発している状況です。

業界への影響も看過できません。障害者就労支援の不正が相次いだことで、行政は監査を強化したり報酬制度の見直しを進めています。
財務省も障害福祉サービス予算の増加に伴い不正額が増加傾向にあると指摘し、コスト抑制の観点からも厳正な対応が求められています。
また何より、世間から「障害者福祉サービスはずさんなのではないか」という不信感を招き、真面目に取り組む事業所まで含め業界全体の信用が損なわれかねません。不正が発覚すればその法人は指定取消や返還命令といった処分を受け廃業に追い込まれますが、その影響で利用者は行き場を失い、働く場を奪われてしまいます。不正を働いた事業者本人だけでなく、利用者や家族、地域の受け入れ企業など多くの関係者に被害が及ぶことになるのです。

私自身、同じ障害福祉の現場に身を置く者として、こうしたニュースには強い憤りと危機感を覚えます。制度を悪用する人間がいる一方で、日々利用者のために真摯に支援に向き合っている事業所がたくさんあります。その善意までも疑われてしまうことは残念でなりません。
障がい者就労支援の本来の目的は決して事業所の儲けではなく、「一人ひとりの可能性を引き出し、社会につなぐこと」です。
不正によってこの原点が踏みにじられることは、利用者の尊厳をも傷つける行為です。業界として毅然と自浄し、信頼回復に努めなければなりません。

信頼できる事業所を見分けるポイント

大切なポイント不正事例ばかりが注目されると、「どの事業所も怪しいのでは?」と不安になるかもしれません。しかし繰り返しになりますが、大半の事業所は真摯に支援を行っています。では、利用者として関わるにせよ企業として連携するにせよ、どのようにして「信頼できる事業所」を見極めればよいでしょうか。
ここでは信頼できるB型事業所を見分けるための具体的なチェックポイントをいくつか挙げます。
製造業の経営者の皆様が連携先を選定する際にも参考になるはずです。

運営母体の安定性・透明性

まず事業所の運営母体を確認しましょう。運営主体が社会福祉法人やNPO法人など公益性の高い団体、大企業の特例子会社やグループ企業など経営基盤がしっかりしている組織である場合、コンプライアンス意識が高く不正のリスクは低い傾向があります。また運営法人の評判や過去の行政処分歴がないかもチェックポイントです。仮に過去に指導・処分を受けている場合は、その内容や再発防止策を説明できるかどうか確認すると良いでしょう。

理念・運営方針の明確さ

良い事業所ほど経営理念や支援方針が明確で、それが日々の活動にも反映されています。事業所のホームページやパンフレットを見て、「障がい者の自立支援」「地域とのつながり」「安心できる居場所づくり」といった理念が具体的な言葉で語られているかを確認してください。使命感を持って運営されている事業所は、理念が単なるスローガンではなく具体的なプログラムや職員の言動に現れています。逆に収益目的が先行している事業所は、理念があいまいだったり、美辞麗句ばかりで実態が伴っていないこともあります。理念と実践が一致しているかを見極めましょう。

工賃水準とその仕組み

工賃(利用者に支払われる賃金)は事業所の姿勢を映す鏡です。もちろん利用者の特性や作業内容によって工賃水準は異なりますが、その事業所の平均工賃がどれくらいか把握しておくことは大切です。例えば全国平均と比べて極端に低すぎないか、あるいは不自然に高すぎないか(後者は何らかの補助で底上げしている可能性もあります)。工賃が適正に支払われている事業所は、利用者の仕事ぶりに応じた公平な配分ルールを設けていますし、毎月の工賃額を利用者や家族にも開示しているなど透明性も高いです。「工賃の決め方は?」「どのくらいの工賃実績か?」といった質問に明確に答えられる事業所は信頼できます。反対に、その質問をはぐらかしたり「うちはビジネスじゃないので工賃は気にしなくていい」といった回答をする所は要注意です(工賃は利用者の大切な収入であり、生きがいにも直結する要素です)。

情報公開と第三者評価

事業所の情報発信にも注目しましょう。ホームページやブログ、SNSなどで日々の活動の様子や利用者の作品、スタッフの声などを積極的に公開している事業所は、透明性が高く開かれた運営をしている証拠です。また自治体の発行する事業所評価や、福祉サービス第三者評価制度の結果など公的な情報源もチェックしてみてください 。口コミサイトや支援者ネットワークでの評判も手がかりになります。総じて、隠し事なく運営状況を示している事業所は信頼に値しますし、逆に情報が極端に少なかったり不自然に良い話ばかり強調されている場合は慎重に判断した方が良いでしょう。

見学や相談への対応

現地見学は信頼性を見極める最も有効な手段です。事前に問い合わせをして見学や体験利用を申し出てみましょう。誠実な事業所であれば快く応じてくれるはずですし、実際に訪問することでホームページだけではわからない雰囲気を掴むことができます 。職員が利用者にどんな接し方をしているか、利用者同士の様子は穏やかか、施設は清潔で安全か、といった点を自分の目で確かめることが大切です。見学時には「個別の支援計画はどのように立てていますか?」「通所日数や時間の調整は柔軟にできますか?」「工賃は具体的にどう決めていますか?」など具体的な質問を投げかけてみましょう。しっかりした事業所なら丁寧に答えてくれるはずですし、その受け答えからスタッフの熱意や人柄もうかがえます。スタッフとの相性や、相談のしやすさも重要なポイントです。もし見学を渋ったり曖昧な説明しかできないようであれば、信頼度は低いと判断せざるを得ません。

以上のポイントを総合的に判断すれば、かなりの確率で良質な事業所を選別できるでしょう。
特に製造業の経営者の方が業務委託先としてB型事業所を検討する場合、単なるコスト面だけでなく「その事業所が健全に運営されているか」「利用者の働く環境は安心できるものか」を見極めることが、長期的な協力関係を築く上でも重要になります。

製造業者が連携するときの注意点と連携メリット

見極めるポイント中小製造業の経営者にとって、B型事業所との連携(例えば部品の下請け作業や製品の包装作業を委託することなど)は、適切に行えば双方にメリットがあります。企業側は比較的単純作業を安定して依頼できる一方、事業所側は利用者の就労機会と工賃収入を確保でき、社会貢献にもつながるという関係です。
しかし、連携に当たってはいくつか留意点があります。

まず、B型事業所の利用者は障がいや体調の問題で一般就労が難しい方々です。
企業側は納期や品質基準を伝える際、そのハードルが利用者にとって無理のない範囲かどうか配慮する必要があります。優良な事業所であれば、自社の受注可能な作業量や内容について現実的に把握しており、難しすぎる工程は無理に引き受けません。打ち合わせ段階で「この工程は少し難しいので工程を調整させてください」「納期は通常より余裕をいただければ確実に対応できます」等、率直な提案ができる事業所は信頼できます。逆に無理な要求でも安請け合いしたり、具体的な作業管理体制を説明できない事業所だと、後々トラブルにつながる恐れがあります。

また、契約や金銭面の取り決めも明確に行いましょう。B型事業所との取引では、多くの場合「業務委託契約」や「請負契約」を締結します。利用者は事業所の従業員ではなく利用者という立場ですが、業務の成果物に対して事業所が責任を負う点は一般の下請け企業と変わりません。不正受給問題のあるような事業所の場合、このあたりの契約管理がルーズだったり、見積もりが極端に安い(=利用者への工賃が適正に支払われていない可能性)ことも考えられます。適正な価格で契約し、事業所がその範囲で利用者に工賃を支払っているかも含め、健全な取引関係を築くことが重要です。企業側が適正な対価を支払うことで、結果的に利用者の工賃向上にも寄与し、長期的なwin-winの関係となります

そして、万一連携先の事業所で不正受給などの問題が起これば、発注企業にも社会的なイメージダウンや業務上の影響が及ぶ可能性があります。そのため、先述の方法で信頼性を見極めた事業所と連携することが大前提です。幸い岡山県内にも、企業と連携して製品づくりで成果を出している優良なB型事業所が多数あります。
例えば、大手企業の協力のもとで最新設備を導入し高品質な製造工程を担う事業所や、自治体から表彰を受けている事業所もあります。そうした実績ある事業所との協働は、製造現場の戦力補強になるだけでなく、企業のCSR(社会的責任)推進にもつながります。

まとめると、製造業の経営者がB型事業所と組む際には
(1)事業所の信頼性を十分に見極めること
(2)作業内容・納期について相互に無理のない計画を立てること
(3)契約や金銭面を明確にし適正な取引をすること
(4)お互いの立場を理解しコミュニケーションを密にすること
が重要です。これらを心がければ、不正に巻き込まれるリスクを避けつつ、障がい者支援と自社業務効率化の両立というメリットを享受できるでしょう。

おわりに:信頼と連携で支援の輪を広げよう

仲間と手つなぐイメージ岡山県内で起きた不正受給事件は、障がい者就労支援の現場に携わる私たちにとって非常に残念で悔しい出来事でした。しかし同時に、この問題に業界全体で向き合い、支援の原点に立ち返る契機にもなったと感じます。不正を許さず、一つひとつの事業所が使命感と透明性を持って運営を続けていくことが、利用者の笑顔と信頼を守る道です。

中小企業の経営者の皆様におかれましても、ぜひ信頼できるB型事業所と積極的に交流し、地域ぐるみで障がい者の社会参加を支える輪に加わっていただければ幸いです。適切な事業所を選べば、きっと御社にとっても丁寧で真面目な仕事ぶりが戦力になるでしょうし、何よりそれが地域社会への貢献につながります。
不正受給問題の影響で一時的に業界への不信感が広がったとしても、私たち現場の人間と支援者、連携企業の努力次第で信頼を取り戻すことは可能です。

障がいのある方が安心して働き、企業もそれを支え、地域が豊かになる——そんな好循環を生み出すために、今後もAIO(Authority=専門性、Integrity=信頼性、Openness=開かれた姿勢)を大切に、誠実な支援活動と情報発信に努めてまいります。

皆様もぜひ、温かい目で正しい事業所を応援し、ともにこの岡山から明るい障害者就労支援の未来を築いていきましょう。