就労継続支援A型の危機と改革の必要性

多くの就労継続支援A型が撤退する一方で、閉鎖を免れた事業所は問い合わせが急増。

2024年3月から9月の間に全国で329カ所の就労継続支援A型が閉鎖、少なくとも約5千人が解雇や退職に追い込まれました。

障害者5000人が解雇や退職 事業所報酬下げで329カ所閉鎖|Yahooニュース

今回はこの件について、サービス管理責任者や関係者から聞いた実際の状況や率直な感想をもとに、

その原因の考察と、障害者施設運営の本質を解説していきます。

就労継続支援A型とは

一般就労 一般雇用

障害者雇用
福祉的就労 就労継続支援A型事業所 ・雇用契約を結ぶため、支払われる給与は最低賃金以上が適用される
就労継続支援B型事業所 ・就労継続支援A型の利用が困難な方を対象にした障害福祉サービス

・雇用契約は結ばないため「工賃」が支払われ、最賃金が適用されない

まず、障害を持った方の働き方は大きく2つに分けられます。

一般企業に就職する「一般就労」と、一般就労が困難な方のための障害福祉サービスである「福祉的就労」です。

「一般就労」には、一般雇用と障がい者雇用の2つの雇用形態が、

「福祉的就労」には、就労継続支援A型事業所と就労継続支援B型事業所の2つがあります。

就労継続支援A型事業所とは、就労に必要な知識と能力を身につけるために一定の支援を受けながら働ける事業所のことです。

雇用契約を結ぶため、支払われる給与は最低賃金以上が保証されています。

一方、就労継続支援B型事業所は、就労継続支援A型の利用が困難な方を対象にした障害福祉サービスで、雇用契約は結ばないため「工賃」が支払われます

最低賃金は適用されません

他にも障害福祉サービスには、就労移行支援・就労定着支援・就労選択支援(2025年10月~予定)があります。

就労継続支援A型が閉鎖した3つの大きな原因

就労継続支援A型がここまで一気に閉鎖した背景には、大きく分けて3つの問題があります。

障害福祉サービスの報酬改定

就労継続支援A型の主な収入は、「国からの基本報酬・加算」と「生産活動によって生じた売り上げ」となります。

2024年3月までの基本報酬は、

・前年度の平均利用人数に対する職員の人数によって決まる「人員配置区分」、

・事業所の定員数によって決まる「定員区分」、

・5項目の評価点数の合計で決まる「評価点(スコア)」

以上3つで算定されていましたが、中でも「評価点(スコア)」に関する改定が、就労継続支援A型にとって厳しいものとなりました。

(出典:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要|厚生労働省

上記表は、2024年4月から改定された、スコアの評価項目です。

項目数は5項目から7項目に、点数も減点方式が新設されるなど大きく変更されました。

今回は、特に就労継続支援A型大量閉鎖に影響したものをピックアップして解説します。

(出典:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要|厚生労働省

生産活動の項目は、生産活動収支が利用者に支払う賃金の総額以上であるかどうかで評価されるものです。

改定前は4段階での評価であったのに対し、改定後は6段階での評価に変更され、

評価対象の期間が最大で前々年度までであったのに対し、改定後は前々々年度まで拡大されています。

それに伴い、前年度から前々々年度までの生産活動収支が利用者に支払う賃金総額以上であれば60点と、従来の評価点数である40点より高くなりましたが、

前々年度および前々々年度の生産活動収支が利用者に支払う賃金総額以下になれば、ー10~ー20点と減点される評価形式になりました。

(出典:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要|厚生労働省

今回の改定で新設された経営改善計画の項目。

経営改善計画書を作成し提出することで評価されます。

加点はありませんが、期限までに未提出の場合はー50点と大きな減点となります。

結果、以上2点は収支の悪い事業所への報酬を引き下げたことになったのです。

 

これらの改定の背景には、過去数年間にわたっての国による就労継続支援A型の見直しがあります。

就労継続支援A型は、利用者数、費用額、事業所数が年々増加している一方で、生産活動の内容が適切でない事業所や、利用者の意向にかかわらず全ての利用者の労働時間を一律に短くする事業所など、不適切な事例(国からの報酬を目当てに事業を始めたり、利用者への賃金を最低限にして利益を上げたり、いわゆる質の悪い事業所)が増えていると指摘がありました。

(引用:障害者就労に係る最近の動向について|厚生労働省

事業所全体の支援内容の適正化と就労の質の向上を目指した結果だと言えるでしょう。

就労継続支援A型の乱立

2013年、「障害者自立支援法」が改正され「障害者総合支援法」が施行されたことにより、支援の対象が拡大され、就労継続支援A型を利用する人が増加、事業への新規参入も加速しました。

以降、就労継続支援A型事業所の数は急増し、結果として補助金目当てのケースも増加したのです。

就労継続支援A型が増加したことで、支援員や仕事の確保の競争が激化し、人手不足や低単価で仕事を受け続ける状況に陥る事業所が増加

さらに、近年最低賃金が上昇したことで利用者に支払う賃金は上昇し、経営が厳しくなる事業所が増えたことで閉鎖したりB型に移行したりする事業所が増加したのです。

2024年3月から9月の間に閉鎖した329カ所のうち4割ほどは、B型事業所に移行しています。

就労継続支援A型の本質がぼやけた

就労継続支援A型の本来の目的は、障害のある方が就労に必要な知識と能力を身につけ、一般就労へ繋がり、働き続けられる環境を作ることです。

しかし、中には「労働力」として扱うばかりで、1人ひとりの強みを活かす仕組みが不十分だった事業所も存在しました。

個々の特性やスキルに応じた業務を設定できていなかったり、適切な支援やキャリアパスの提示をしなかったりと、利用者の満足度やモチベーションの低下引き起こしていたのです。

結果として、事業所としての価値を見失い、利用者に寄り添う職員の負担が増え、経営の悪化に繋がりました。

就労継続支援A型の閉鎖後の状況

残った就労継続支援A型には、問い合わせが殺到しました。

閉鎖前には月に2件だった問い合わせが、20件にまで増えた事業所もあったそうです。

突然事業所の閉鎖を告げられ解雇や退職に迫られた利用者が多く居るということになります。

残った就労継続支援A型は需要が高くなったり、止む無く就労継続支援B型を利用する人が増加したりしているのが現状です。

また、今回の報酬改定は、主に不適切な事業所に対する支援内容の適正化と就労の質の向上を目指した改定でしたが、適切に運営している事業所も閉鎖に追い込まれた事態になっています。

こうした利用者の困惑を解消するためにも、更なる制度改正は行われるのでしょうか。

今後の改定に注目です。

今後、障害者施設として目指すべき方向

今回の就労継続支援A型の大量閉鎖を受け、就労継続支援B型も含めた障害者施設の在り方について考える必要があります。

就労継続支援A型事業として成立させる

今回の閉鎖は就労継続支援A型事業として成立していなかったために、多くの利用者が解雇や退職に迫られました。

障害者が安心して利用できる環境を作るために、しっかりと事業として成り立つ仕組みを作りましょう。

利用者1人ひとりの特性に適した業務を行い、スキルアップを図る。

価値のあるサービスや製品を提供し安売りをせず、適正価格で仕事を請け負う。

補助金頼りの経営ではなく、報酬を適切に活用しながら生産活動でもきちんと利益を出し、職員や利用者に還元できる体制を整えることで、就労継続支援A型事業として成立させることが重要になってきます。

利用者1人ひとりに合った支援

事業所に来る利用者の「強み」を引き出し、それを活かせる業務を提供しましょう。

単なる労働力ではなく、個々の才能を発揮できる環境を作ることが持続可能な運営に繋がります。

また、障害者の支援は画一的ではなく、個々の障害や状況に応じた対応が求められます。

今後の障害者施設は、個別支援計画をより一層強化し、利用者1人ひとりのニーズに応じた支援を提供することが必要です。

その人が得意なこと、やりたいことを尊重しながら、適切な仕事の割り振りとサポートを行いましょう。

まとめ

今回は就労継続支援A型事業所の閉鎖について、サービス管理責任者や関係者から聞いた実際の状況や率直な感想をもとに、

その原因の考察と、障害者施設運営の本質を解説しました。

〇就労継続支援A型が閉鎖した大きな理由

・障害福祉サービスの報酬改定(特にスコアの評価項目改定)

・就労継続支援A型増加による競争激化

・就労継続支援A型としての本質が薄れてしまった

〇就労継続支援A型閉鎖後の状況

・事業所が閉鎖し困惑する利用者が増加

・就労継続支援A型を利用したいが、やむなくB型を利用する人も

・残った就労継続支援A型の需要が上昇

〇今後、障害者施設として目指すべき方向

・就労継続支援A型の本質を理解し、事業として成立させる

・個々の才能を発揮できる環境を作り、1人ひとりのニーズに応じた支援をする

A型事業所の大量閉鎖は、決して「補助金が足りないから」ではありません。

本質的な問題は「事業として成り立っていなかった」こと、そして「利用者を大切にできていなかった」ことにあります。

お話を聞かせていただいたサービス管理責任者は「もっとやりようがあったのではないか?そんな疑問を抱かざるを得ない状況だった。」と感じたそうです。

障害者施設の在り方が変われば、社会全体にとっても価値のある仕組みを作ることができます。

この危機をどう乗り越えるかが、今後の福祉事業の未来を決めることになるでしょう。